ご挨拶

保育園から仕事に向かう道、自転車を猛スピードで漕ぎながら私は「母親スイッチ」をオフにし、通勤客に混じって電車に乗る頃には、「働くスイッチ」をオンにします。日々大変なことが満載で、いつも何かに追われ、急き立てられるような毎日ですが、新しい仕事の企画を始める時のワクワク感も、少し成長した子供の姿にほろっとする瞬間も、まぁまぁ悪くないな、と思えるようになってきました。

そんな仕事と、仕事以外の子育てや介護、社会活動など、複数の役割を持つことが、私たちのこころや体の健康、生産性や幸福感にどんな影響を及ぼしているのか、少しずつ研究が重ねられ、そのメカニズムが明らかになってきています。例えば精神的に負担のかかる業務(いわゆる感情労働)の方は子育てや介護の両立に困難を感じやすい傾向があること、サポートが少ない(いわゆるワンオペ)状態だと心の健康を害しやすい事、またコミュニケーションを通して心の健康は良くも悪くも周囲の人たちに影響を及ぼしてしまう事などです。

これらの研究の蓄積は、環境改善やセルフケア活動を通じて、量的な役割負担を減らしたり、社会的サポートを増やす取り組みにも活用されています。

一方近年、複数の役割を持つことで得られる効用(ポジティブ・スピルオーバー)や、幸福感や満足感、生産性向上との関連にも注目が集まっています。またそれらの良い効果が、個人を超えて周りの人たちに伝染する、ポジティブ・クロスオーバー(幸せの伝染効果)についても、ヨーロッパやアメリカを中心に、研究が進んでいます。たくさんの役割を持ちながら、アクティブに、しなやかに生きているのはどんな人たちなのかということも、少しずつわかってきました。

私たちはこのような複数の役割を持つことや、働き方、個人の性格や状態が、どんなメカニズムで関連し、周囲の人たちへ影響するのか、それが日本人ではどうなのか、ということを明らかにしたいと思い、この「イキイキ・しなやかプロジェクト」を計画しました。特に、心の健康に悪い影響を及ぼす要因というよりは、ポジティブな要因、さらにはその方個人だけでなく、周囲の人たちへの「幸せの伝染効果」にも着目し、私たちが日々イキイキとそしてしなやかに生活するには、何が必要で、何を減らすべきなのかについてのヒントを見つけ出そうと考えています。

現在の日本は、ジェンダーギャップ指数110位(2018年)、個人の幸せ度もなかなか上がらず、高齢化率も28.1%(2018年)と過去最高を更新しました。しかし同時に、分野を超えた協力で新しい技術がどんどん誕生し、元気な団塊世代の仕事以外の活躍や、子供達のプログラミング能力の躍進など、明るい未来を期待できる要素も見受けられます。次世代を担う子供達が希望の持てる社会、持続可能性のある豊かな未来に近づくために、私たちは健康科学・精神保健学の観点から、研究を通して貢献したいと考えています。

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